犯罪・刑事事件の解決事例
#医療過誤

開業医の転医義務違反が認められた事例 (開業医の本分は軽い病気の治療と重大な病気の転医義務)

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臼井 義幸 弁護士が解決
所属事務所信濃法律事務所
所在地長野県 長野市

この事例の依頼主

60代 男性

相談前の状況

相談者は、近所の眼科(開業医)を受診し、「糖尿病性網膜症(-)」「老人性白内障」と診断されました。続いて、12日後に同じ眼科を受診し、病院に紹介され、眼科の手配により約1か月後に予約をとりました。予約の日に病院を受診しましたが、「PVR完成している」(増殖性硝子体網膜症)、「かなり時間の経過したPVR」と診断され、翌日、その病院で手術を受けましたが、「網膜欠損および全周性網膜剥離のまま終了」し、その結果、片目失明=SL-になりました(後遺障害8級相当)。

解決への流れ

まず相手の眼科に責任を追及できるかどうかの調査からご依頼を受けましたが、眼科医(開業医)自身も糖尿病性網膜症を疑ったとおり、10年前から糖尿病という病歴からも(長期間糖尿病の人ほど糖尿病性網膜症のリスク高い)、初診時の時点で糖尿病性網膜症が疑われました。網膜症(網膜剥離)は進行が速く、緊急の対応が求められる(手術が2日遅れただけでも過失が認められた裁判例もある)ことから、仮に開業医では眼の詳細な検査ができなかったとしても、少なくとも直ちに高次医療機関へ紹介する義務があったと言え、それに違反したと言える事案でしたので、速やかに相手への損害賠償請求交渉を受任し、10か月ほどの交渉の結果、後遺障害8級(但し、初診時の時点で既に10級相当の状態で直ちに手術をしたとしても回復ができたか不透明であったので、その分は損害賠償額を減額)を前提とした賠償金で示談に至りました。

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臼井 義幸 弁護士からのコメント

開業医の転医義務に関する最高裁判例としては、一般論として、「開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療に当たるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度な医療を施すことのできる診療機関に転医させることにある」と判示した平成9年2月25日最高裁判決があります。本件では、相談者は片方の眼の視覚障害を訴えて眼科(開業医)を受診しましたが、実際には網膜症(網膜剥離)であったところ、医師が他の病名(白内障)と誤診し(正確には、白内障と網膜症とが同時に発症していたのですが、白内障のみと誤診し)、すぐに高次医療機関に転送しませんでした(転医措置はとりましたが、1か月後に予約を入れました)。詳細な検査を実施した右眼が大丈夫だから、左眼(こちらの眼には他の疾患もあったので、開業医での詳細な検査はリスクが伴うため実施せず)も大丈夫だろうと判断してしまいました。一般に、網膜症(網膜剥離)は進行が速く、緊急の対応が求められます(手術が2日遅れただけでも過失が認められた裁判例もあります)。問題となった眼に他の疾患もあったため、開業医が詳細な検査を、自分の医院ではリスクがあると躊躇したことが誤診の一因でしたが、仮に開業医では詳細な検査ができなかったとしても、上記最高裁判決同様、少なくとも詳細な検査が可能な高次医療機関へ直ちに紹介する義務があったと言えます。通常、糖尿病性網膜症は、片目だけに生じる(時間的に片目が先行する)ことが多いのです。本件OCT(網膜の断層)の画像も右眼は正常な実例に似ていましたが、左眼は明らかに異なるものでした。